月経痛と向き合って

月経痛―その日常化した苦痛体験

 Aさんの人生最悪の痛みは月経痛である。毎月月経が始まった時に鎮痛剤の内服を行い、特に仕事の日は疼痛の程度に関わらず6から8時間毎に内服を行う。いったん痛みが出てから内服すると鎮痛剤が効くまでに時間がかかりその間何も手につかない。夜間であれば腹痛で眠れず脂汗をかきながら呻吟(しんぎん)するほかない。毎回月経1日目から3日間は鎮痛剤を定期的に内服している。月経痛に対し恐怖を感じ月経前には精神的にも落ち込むことが多い。また鎮痛剤の内服で胃の調子が悪くなり月経中は食事の摂取量が減り月経前後での体重変化は3キロ前後が普通である。異常な出血量で止血剤の内服も行ったこともある。医療機関を受診し過多月経、月経随伴困難症と診断されホルモン剤の内服も約2年行い、Aさんなりに月経とうまくつき合えるように努めた。ホルモン補充治療の効果は不明で、いまだに鎮痛剤の内服は続いているが経血の量と疼痛の程度はやや軽減したような気がする。
 医学的な知識を学ぶ前、月経に伴う頭痛や腹痛を訴えて鎮痛剤を求めたとき、Aさんは「我慢が足りない」と母親に叱られたことを思い出す。「昔の人は痛くても薬なんかないから我慢していた」と言われ、安易に鎮痛剤を求める自分の弱さがAさんは嫌だった。
 痛みを他人に理解してもらうことは困難である。痛みの閾値や痛みに対する感情などに個人差はあるにせよ確かに痛みを感じており、その人には耐え難い状況であることには変わりない。これは同じ疼痛を経験した者にしか分からない苦痛である。看護職に就く傍ら大学院で看護学を学ぶAさんは、疼痛看護学の受講をきっかけに、改めて自分がこれまで月経痛とどのように関わってきたかを振り返ってみた。

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自分の痛みを初めて測ってみる

 疼痛看護学の中で、Aさんは痛みが心理テストのようなもので測れることを知った。講義の中で紹介された痛みの評価ツールを使って自分の月経痛が簡単に数字で表されることに驚いた。

1)ビジュアル・アナログ・スケール(Visual Analogue Scale,VAS)
 図1はVAS(ヴァス)を使ってAさんが自分の痛みを測った結果である。VASは長さ10cmの目盛りのない単なる直線で、左端が痛みの全くない状態、右端が耐えられない痛みを示す。痛みの強さに相当する部分に垂線を引き、その距離を測る。このときのAさんの月経痛は85mmだったので、85(または8.5)の痛みということになる。ところが、内服後の疼痛の緩和により痛みは25まで軽減した。
 痛みのVAS評価では、通常、50を越えると内服など何らかの対応を行い、70を超えると痛くて他のことに集中できなくなり、緊急に内服もしくは医療機関などへの受診行動をとるということだ。私の場合、月経痛は毎月起こる疼痛であり、内服で対処できることを学習しているので、こうした対処行動が慣習となっているようだ。

2)マックギル疼痛質問票(McGill Pain Questionnaire,MPQ)
 MPQは世界的に有名な疼痛質問票で、1975年にカナダの心理学者のマックギルが作ったと習った。MPQには痛みの性質を表す78の言葉が並べられ、自分の痛みに該当するものを選ぶようになっている。Aさんの月経痛をMPQで評価した結果、表1のようになった。PRI S5 A9 E5 M3 PRI(T)22 NWC 7 PPI3となった。Aさんは月経痛に対して「毎月来る拷問と感じている」と言っているが、痛みの感情成分が高得点であることから、この疼痛がいかに精神的苦痛の大きいものであるかが伺える。
MPQの成分
(得点範囲)
感覚成分
(0~39)
感情成分
(0~17)
評価成分
(0~5)
混合成分
(0~17)
総得点
(0~78)
選択語数
(0~20)
痛み強度
(0~5)
Aさんの月経痛 5 9 5 3 22 7 3
表1.Aさんの月経痛のMPQ評価

3)痛みの行動評価尺度(Behavioral Responses to Pain,BRTP)
 このテストは痛みがあるときどのような行動をとるかをみるものである。38問76点満点のうち、Aさんの月経痛は56点であった。BRTPでは、得点が高いほど痛みの回避行動(対処行動)が取れていると判断され、慢性痛患者の得点が高くなる傾向がある。Aさんの得点は56点と高く、月経痛自体は急性痛であるものの、慢性痛の様相を呈していると思われた。

4)フェイススケール
 フェイススケールとは顔の表情で痛みの強さを判定するツールだが、月経痛の評価は4から5と高めであった。Aさんの印象では、他のテストと比較しややおおざっぱな気がしたという。フェイススケールの評価尺度としての信頼性・妥当性は学界でも評価の分かれるところだと言われている。

図2.フェイススケール

(Bieri D, Reeve RA, Champion GD, et al.: The Faces Pain Scale for the self-assessment of the severity of pain experienced by children: development, initial validation, and preliminary investigation for ratio scale properties. Pain 1990; 41(2):139-150より引用)


5)7角形プロフィール
 7角形プロフィールは心理学者のSato(1991)が開発したもので、痛みの感覚を表す7つの概念が正7角形で示されていて、各要素を0-5で評価して線を結び、それよって出来た7角形の面積の大きさで痛みの強度を評価する。各軸の長さを比べる事も出来る。Aさんの場合、面積は大きく(実測値なし)、7角形プロフィールによっても、Aさんの月経痛が相当強いことがわかった。
 以上のような5つの痛みの評価結果を見て、Aさんは自分にとって月経痛は身体的、精神的、社会的な苦しみであることをと改めて感じたという。
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月経痛のアセスメント

 Aさんは疼痛看護学を学習しながら、自分の身体に起こっている月経痛を次のように洞察した。
 子宮体、卵管内側部、子宮頸部、膣(ちつ)上部から求心路はともに交感神経中を走行し、第11、12胸髄および第1腰髄より脊髄に入る。また、会陰と膣下部は陰部神経支配(第2~4仙髄)、下腹壁と会陰周囲の皮膚は第1、2腰神経前枝から出る腸骨鼠径(そけい)神経、腸骨下腹神経および陰部大腿神経の支配を受ける。同じ第1、2腰神経の後枝は上殿皮神経となって腰部を支配するため、婦人科領域の痛みには関連痛として腰痛がみられる。これらの痛覚線維には有髄のAδおよび無髄のC線維が含まれ、いわゆる仙痛と呼ばれる腹部管腔臓器からの絞扼(こうやく)様、牽引(けんいん)様の幅広い強度の痛み(内臓痛)が生じる。これに会陰とその周囲の皮膚や体壁からの体性痛と、腰部の関連痛が加わる。月経時に子宮の痛みだけでなくその他の部分が痛い理由はこれだった。
 Aさんの月経痛は月経開始1~2日前より始まり、開始当日または翌日まで持続する。一般に、月経痛が最も強く現れるのは月経開始数時間前から月経初日といわれ、痛みは経血量の増加と共に弱まる傾向がある。月経痛は2、3分ごと起こる痙攣(けいれん)性の下腹部痛で、その実態は子宮平滑筋の反復性収縮である。しばしば仙骨部殿部や大腿前面に放散する。月経困難症の半数に、月経痛に付随して全身症状があり、腰痛、悪心、嘔吐、下痢、頭痛、疲労感、いらいら、めまいなどが起こる。Aさんの経験でも随伴症状として月経前に便秘となり、月経開始と共に下痢になることがある。月経後に強い頭痛も経験している。
 正常な子宮では、月経直前または開始時に子宮峡(きょう)部が弛緩する。月経痛のある患者では子宮峡部の緊張が高く、月経直前から開始にかけて同部の弛緩が不十分で月経血の流出が妨げられる。このために子宮はそれに打ち勝とうとして強く収縮し痛みが生じる。月経時には子宮内膜中のプロスタグランディンE2およびF2αの濃度は上昇しており、強力な子宮収縮作用があるため月経痛が起こる。子宮内膜、経血、末梢循環におけるプロスタグランディンの濃度が過剰になると苦痛を伴う痙攣が生じる。月経痛にブスコパン(R)が用いられることがあるが、ブスコパン(R)は平滑筋の痙攣性収縮を抑制するので月経痛が緩和されるのである。

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少しでも楽になるなら、生活を見直してみよう

 Aさんは講義の中で、月経痛とライフスタイルあるいは生活習慣の間に何らかの関係がある可能性が見出されていることをと知った。初経の早いもの、月経期間が長いものほど月経痛が重い傾向がある。また、月経痛の増強因子として喫煙、飲酒、肥満など不健康な日常生活習慣が挙げられるということも知った。無理なダイエットで月経不順となったり月経痛が増強する可能性もあるという。定期的な運動をしている者とそうでない者との比較でも、月経痛の程度に差があることも分かった。Aさんは自分の生活習慣を振り返って、看護師という不規則な交替勤務で、自分の生活習慣は根本的に乱れていると思った。食事は自分で作るが、バランスのとれたものとは言いがたい。また、日ごろの運動不足も否めない。勤務形態については自分の力ではどうにもできないので、せめて定期的な運動を習慣づけ、月経痛の改善を目指したいとAさんは思う。

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月経痛のセルフケア

 Aさんが毎月自分でしている月経痛のセルフケアは基礎体温の測定、月経時の鎮痛剤の内服(できれば予防的に使用)、月経中はできる限り休息をとり、腹部温罨法やストレッチを試すこと、である。基礎体温測定は自分の月経周期を把握し、体調の変化に俊敏に対応するために行っている。月経開始時期を予測できれば、勤務が入っていても鎮痛剤を常備しておき、すぐに対処できる。毎回どれくらい鎮痛剤を内服したか、そして評価ツールを使って月経痛の程度などを記録しておけば、症状の異常憎悪があれば早めに受診もできる。鎮痛剤はプロスタグランディン合成阻害剤であるアセチルサリチル酸やインドメタシンなどの非ステロイド系抗炎症薬を内服する。月経中の睡眠は鎮痛剤の効果時間を逆算し、あらかじめ内服時間を調整し疼痛で中途覚醒しないように配慮している。また、月経時はゆっくり入浴し、冬場はカイロを貼用(ちょうよう)して子宮の緊張を緩らげ、経血の流出を促すようにしている。ストレッチで適度に運動し、同様の効果を狙う。運動に専念することは痛みの集中度を散逸させる効果もあると思う。
 自分は閉経するまでは月経と付き合っていくほかないと、Aさんは覚悟している。悲しいかな、痛みという感覚には順応がないことも学んだ。しかし、これまでの経験や勉強した知識をもとに、予測的・予防的に自分の痛みに対応することはできる。自分の月経について熟知し、自分なりの対処パターンを持ち、生活していくことの大切さを、疼痛看護学の学習を通して考えたことだった。


参考文献
  • 深井喜代子:看護者発痛みへの挑戦.へるす出版,2004.
  • Margo McCaffery M, Beebe A(季羽倭文子監訳):痛みの看護マニュアル.メジカルフレンド社,1985.
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