糖尿病患者の痛み

自律神経障害

1)自律神経障害による症状
 自律神経は多発的に障害され、進行すると障害部位によって様々な症状がでてきます。
 心臓:不正脈や呼吸停止が起こりやすく、突然死の危険があります。
  1. 交感神経:収縮障害により起立時に低血圧、臥位では高血圧となります。
  2. 胃無力症:胃内容の排泄が遅延し、胃部膨満感、嘔吐などが見られます。また血糖コントロールが不安定になります。下痢と便秘を繰り返します。
  3. 腎泌尿器系:無力性膀胱、排尿障害、残尿、勃起障害が起こります。
  4. インスリン拮抗ホルモンの分泌不全:低血糖になりやすく、動悸などの低血糖の症状に気づきにくいため、突然に意識障害に陥る危険があります(無自覚性低血糖)。
  5. 皮膚:発汗の減少または増加がみられます。

2)診断
 心電図R-R間隔変動率や震呼吸時心拍変動は、副交感神経機能を反映します。
  • 心臓自律神経障害の検査法として、131I-MIBG心筋シンチが有効です。
  • 安静臥位と起立時の血圧の差を測定します。
  • 残尿が疑われる場合には、エコーで残尿を確認し、専門医で無力膀胱パターンを確認します。

3)気をつけていただきたいこと
  1. 起立性低血圧・臥位性高血圧のある方

    枕を高くして寝る、急激に体の向きを変えない、日中は弾性ストッキングを着用するなどの方法があります。

  2. 糖尿病胃腸症のある方

    胃無力症に対して消化管運動調整薬、下痢に対して止痢剤、乳酸菌整腸薬などが便秘には緩下剤が使われています。

  3. 神経因性膀胱の方へ

    尿意がはっきりしない場合、一定の時間ごとに排尿し、排尿後に膀胱を圧迫して残尿がないようにします。薬物療法も使われることがあります。

  4. 無自覚低血糖の方へ

    頻回に血糖値を測定し、わずかな症状から低血糖を早めに知るよう訓練が必要です。 血糖値の変動幅が少なくなるように食事や運動の方法を工夫しましょう。 低血糖昏睡に陥ったときのために、糖尿病手帳と糖質を携帯しましょう。

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末梢神経障害

1)末梢神経障害による症状
 最も多く見られるのは、末梢神経の多発神経障害による症状です。多くは、左右対称性に見られ、足先から徐上に範囲が広がります。現れる症状は、足先のしびれ、異常知覚、足の痛みなどです。神経障害が進むと知覚神経が麻痺し、触覚、痛い、熱いなどの感覚が失われ、傷ができても気付きにくく、壊疽になりやすい状況になります。痛みを感じる有痛性神経障害では、痛みにより睡眠不足や憂うつ状態になることがあります。

2)診断の方法
 臨床所見として、深部腱反射や振動覚、触覚の低下、神経伝導速度の低下がみられます。
  • 深部腱反射:ハンマーで膝蓋腱反射、アキレス腱反射の低下・消失の状態をみます。
  • 振動覚:128Hzの音叉を用いて足関節部内果で確認します。10秒以上であるが、神経障害では短縮します。
  • 触覚の低下:触覚、温度感覚、痛覚を中枢と抹消を比較して確認します。神経障害では末梢ほど強く低下します。
  • 神経伝導速度:筋電図計を用いて、刺激が伝わる速さを測定します。
3)生活の中で気をつけていただくこと
  • 自分の足を清潔に保ち、毎日観察をしていただきます。
  • けがを防ぐために素足は避けましょう。
  • 履物は、足に合ったものを選びましょう。
  • 火傷を防ぐために電気あんかなどの保温器を使わないでください。
  • 症状があれば遠慮なく担当の先生に相談してください。
  • 痛みが薬で改善しない場合もお知らせください。



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単発性神経障害

1)単発性神経障害による症状
 単発性神経障害は、神経栄養結果の閉塞により単一の神経束が障害されたために起こると考えられています。比較的軽い糖尿病の方にも顔面神経麻痺、動眼神経発麻痺、外転神経麻痺などの症状が見られることがあります。その他、腓骨神経障害、体幹の単発神経障害、糖尿病筋委縮などがあります。

2)診断
 臨床所見として、深部腱反射や振動覚、触覚の低下、神経伝導速度の低下がみられます。
  • 顔面神経麻痺:突然に顔面筋の弛緩が起こります。
  • 動眼神経麻痺:突然に眼瞼下垂と複視が見られます。
  • 外転神経麻痺:突然に複視が見られます。
  • 頭部MRIによる他疾患との鑑別や耳鼻科や神経内科との連携が必要です。

3)気をつけていただきたいこと
 まずは単発性神経障害は予後の良いことを理解していただき、血糖コントロールと血流障害の改善、局所の筋力トレーニングなどが試みられています。

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糖尿病性神経障害

1)糖尿病性神経障害とは
 長期にわたる高血糖の結果起こる糖尿病の慢性合併症に一つであり、脊髄神経、脳神経、自律神経が侵される病気です。糖尿病と診断されて5年後から出現することが多く、合併症の中で比較的早く出現します。原因は、神経組織でのソルビトール蓄積などの代謝障害や血管の閉塞が原因であると考えられています。
 代謝障害が主因とされる広汎性左右対称性神経障害は、①多発性神経障害(異常感覚″しびれ感、ジンジン感、冷感など″、自発痛、感覚鈍磨、こむらがえり)、②自律神経障害(発汗異常、起立性低血圧、胃無力症、便通異常、胆のう無力症、膀胱障害、勃起障害、無自覚低血糖など)があります。 血管閉塞が主因とされる単発性神経障害には、①脳神経障害(外眼筋麻痺、顔面神経麻痺、聴神経麻)、②体幹・四肢の神経障害(尺骨神経麻痺、腓骨神経障害、体幹の単発神経障害)、③糖尿病筋委縮があります。
 「痛み」は、広汎性左右対称性神経障害の多発性神経障害による感覚障害の症状として出現します。したがって、糖尿病性神経障害の人すべてが痛みを感じるわけではありません。
2)治療と予防
 早期に症状を発見することと血糖コントロールにより改善することを説明し、生活を見直し、血糖コントロールを良好に保つことが大切です。アルコール類、喫煙により症状が悪化するので、原則禁止であることを理解してもらい、実行していただくことが大切です。

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糖尿病性神経障害による痛み

1)糖尿病性神経障害と痛みの関係
 糖尿病性神経障害は、慢性的に高血糖による代謝障害が続いたために起こる糖尿病に特有の末梢神経障害であり、糖尿病の慢性合併症の一つです。糖尿病と診断されて約5年で症状が出現することが多いとされています。糖尿病性神経障害は、①代謝障害が主因とされる広汎性左右対称性神経障害(下肢の感覚障害、自律神経障害など)と②血管閉塞が主因とされる単発性神経障害(脳神経障害、体幹・四肢の神経障害、糖尿病筋委縮)に分類されます。「痛み」は、広汎性左右対称性神経障害の多発性神経障害による感覚障害の症状として出現します。したがって、糖尿病性神経障害の人すべてが痛みを感じるわけではありません。
2)糖尿病性神経障害の診断の方法
 糖尿病性神経障害の診断は、筋電図などの電気生理学的検査が含まれており、日常の診療の中で多数の人を対象に実施することは難しく、すべての患者さんに実施されているわけではありません。自覚症状が乏しいということと、診断のための検査が容易にできないことで、糖尿病性神経障害の診断を正確に行うことは難しいことでした。最近では「糖尿病性神経障害を考える会」による糖尿病性神経障害の簡単な診断方法を目指して簡易診断の方法を開発されています(図1)。

図1 糖尿病性神経障害の簡易診断基準(糖尿病性神経障害を考える会.1998年作成,2002年改訂)

必須条件:以下の2項目を満たす

  1. 糖尿病が存在する
  2. 糖尿病性多発神経障害以外の末梢神経障害を否定しうる

条件項目:以下の3項目のうち2項目以上を満たす場合を“神経障害あり”とする

  1. 糖尿病性多発神経障害に基づくと思われる自覚症状
  2. 両側アキレス腱反射の低下あるいは消失
  3. 両側内踝の振動覚低下

注意事項:

  1. 糖尿病性多発神経障害に基づくと思われる自覚症状とは
    • 両側性
    • 足趾先および足裏の「しびれ」「疼痛」「異常感覚」のうちいずれかの症状を訴える

      上記の2項目を満たす

      上記の症状のみの場合および「冷感」のみの場合は含まれない

  2. アキレス腱反射の検査は膝立位で確認する
  3. 振動覚低下とはC-128音叉にて10秒以下を目安とする
  4. 高齢者については老化による影響を十分考慮する

参考事項:以下の参考項目のいずれかを満たす場合は、条件項目を満たさなくても“神経障害あり”とする

  1. 神経伝導検査で2つ以上の神経でそれぞれ1項目以上の検査項目(伝導速度、振幅、潜時)の明らかな異常がある
  2. 臨床症候上、明らかな糖尿病性自律神経障害がある(自律神経機能検査で異常を確認することが望ましい)

3)症状の特徴
 作成された診断基準を用いて「阪神糖尿病合併症研究会」に参画する病院の外来で、297名の糖尿病患者を対象に、糖尿病神経障害の自覚症状のアンケートとアキレス腱反射・振動各検査が実施された結果、約56%のものにアキレス腱反射と振動覚C-128で異常が見られました。対象者のうち神経障害の存在が疑われるものは約半数と考えられましたが、自覚症状を訴えたものは、足先のジンジン・ピリピリ22.2%、足先の痛み11.1%、足の鈍い感じ・しびれる感じ16.5%、小石や布団の上を歩いている感じ12.8%と少なく、約2/3は無自覚でした。
 この理由として、罹病期間とともに病状が進行し、神経線維が脱落することにより痛み、しびれなどの陽性症状は陰性症状となり、感覚低下が強くなることが考えられます(図2)。自覚症状の強さと糖尿病性神経障害の重症度は必ずしも一致しないのが糖尿病性神経障害の特徴です。痛みを主とする感覚障害は、知覚鈍麻、自発痛、しびれ感、灼熱感などであり、不眠、イライラ感、うつ状態など日常生活に支障をきたします。

痛み、しびれなどのいわゆる陽性症状は、上の図に示すように残存神経が病的状態にあると出現する。罹病期間とともに進行し、神経線維の脱落とともに陽性症状はなくなり、逆に陰性症状としての感覚低下(鈍麻)が強くなってくる。

参考文献
  • 糖尿病性神経障害の症状と病理所見との関連(八木橋操六:糖尿病性末梢神経障害進展の病理的解釈.糖尿病性細小血管症.文光堂:2006.p.174-180.2)より)


4)どのような疼痛管理が行われていますか
 疼痛管理で一番重要なことは血糖コントロールであり、糖尿病性神経障害の発症と血糖コントロールの関係が報告されています。神経障害による疼痛が強く日常生活に支障をきたす場合には、血糖コントロールと生活習慣の改善に加え、症状緩和のための薬物療法が必要となります。
 軽症の場合は非ステロイド性消炎鎮痛薬も有効ですが、中等度以上の有通性神経障害には、イミプラミン、アミトリプチリンなどの三還系抗うつ薬が最も推奨されています。副作用として眠気、注意力低下、性神経系の症状と口渇、排尿障害、眼圧亢進などの抗コリン作用の出現がみられることがあります。三還系抗うつ薬のみで十分な鎮痛効果を示さない場合、フルフェナジン、クロルプロマジンなどの抗精神薬との併用も有効とされています。抗痙攣薬(カルバマゼピン、ガバペンチン)、抗不整脈薬(メキシレチン)なども有痛性神経障害に有効ですが副作用への対策も必要です。

5)在宅医療・看護における疼痛管理
 まず大切なことは、症状が糖尿病が原因であるかどうかを見分けることです。足先のジンジン・ピリピリ、足先の痛み、足の鈍い感じ・しびれる感じ、小石や布団の上を歩いている感じなどの違和感があれば、遠慮なく担当の先生に相談してください。
 特に痛みを軽減するために薬が使用されますが、薬の効果は個人差があります。痛みが良くなっているのか変わらないのかなど、薬の効果についてもお話しください。

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